下図は、インボリュート歯車の歯面がインボリュート曲線と歯元隅肉曲線(トロコイド平行曲線)から構成されることを示しています。左はアンダーカット発生時、右はアンダーカットのない場合です。アンダーカットがある場合なら、2つの曲線の交点は「尖り点」となり、視覚的に識別可能ですが、右の場合は切り替わる点を判断するのは困難です。
アンダーカットがない場合の接続点半径は、以下のようにして求められます。
共通接線と共通法線(アンダーカットのない場合)
これら2つの曲線はなめらかな凸形状であり、特定の点で共通接線、共通法線を持ちます。その点は2曲線間の最短距離となります。インボリュート歯車では、2つの曲線は最短距離が0、すなわち接触しています。インボリュートの加工工程と歯元隅肉の加工工程が別々であるにも関わらず、その境界点は完全に接するのです。
曲率半径が大きくなると、視覚的な判断が難しくなりますので、実際に法線を描いて確認しましょう。
Fusionで曲線のスケッチを編集状態にし、曲線を選択すると、スケッチパレットに「曲率コーム」というオプションが表示されます。このオプションをクリックすると、曲線上に曲率半径の方向と大きさを示すベクトル群が表示されます。これらのベクトルの方向は、曲線上の点の法線方向を指し示しています。
インボリュート曲線と歯元隅肉曲線の両方の曲率コームを表示した後、法線の傾きが同じである点を探します。この点は基礎円からわずかに外径側に位置しています。
その点が求める点になります。
計算で求めるには
幾何計算を用いて解明しましょう。
インボリュート曲線と歯元隅肉曲線の接続点は、両曲線が接線連続性を満たす場合、その位置で両曲線の法線が等しくなります。
ラック型工具における同じような点は、直線切れ刃と歯先丸みの境界点であり、接線連続性が成立するため、両法線の傾きも等しくなります。
かみ合いにおける歯面接触点の法線方向は作用線を指し、結果としてインボリュート曲線と歯元隅肉曲線の法線が一致するのは、ラックの直線切れ刃と歯先丸みの境界点が作用線上にある時です。
別の言い方をすると、インボリュート曲線と歯元隅肉曲線の接続点は、ラックの直線切れ刃と歯先丸みの接続点が歯面上に転写されたものです。
作図で求める手順
CADを使用して作図で求める手順は以下の通りです。記号は図5を参考にしてください。
1. ピッチ点Pから基礎円に接線を引き、作用線PTを作成します。
2. ラック切れ刃と歯先丸みを作図し、境界点Vを求めます。
3. Rの位置で水平線を引き、作用線PTとの交点Qを求めます。
4. 歯車の回転軸をOとしたとき、OQが求める「歯元隅肉開始径」になります。
5. Qを回転させてインボリュート曲線と歯元隅肉曲線との交点Sを求め、これが2つの曲線の境界点になります。
計算で求める手順
数値計算による場合、ラックのピッチ点Pから境界点の高さUまでの距離は以下の式で示されます。
ピッチ円半径は
ラックの境界点の水平線と作用線の交点座標は
Qのy座標:
Qのx座標:
したがって交点半径は次式となります。
例題
Z=20,α=20,m=10,ha=1,hf=1.25,ρf=0.38のとき
r=mZ/2=100
hf'=(1.25-0.38(1-sin20))*10=10
Qy=100-10=90
Qx=10/tan20=24.747
rcp=√(90^2+24.747^2)=94.1
基礎円半径が100*cos(20)=93.96なので、その0.14外径側となります。
確認
下図に示されるように、r94.1の位置で立てられた両歯面の法線が一致していることをCADで確認しました。