歯車の形に興味のある人に

Fusion:正確なインボリュート曲線と歯元隅肉曲線の作図法(改訂版)

CADで正確なインボリュート歯形と歯元隅肉曲線を描く - 歯車のハナシの内容を一部見直しました。
一番の違いは、インボリュート曲線の起点配置です。


はじめに

Autodesk Fusionを対象として、正確なインボリュートと歯元隅肉曲線の作図方法を説明します。学習目的や、規格外の諸元、成型工法での歯元形状設計、危険断面特定、CAEなどにも利用できると思います。

前半で歯元隅肉曲線、後半でインボリュート曲線の作図について手順を紹介します。



歯元隅肉曲線の作成手順

ラック工具諸元

・次のようなJIS標準ラック工具にて作成するものとします。
(歯数Z6とあるのは無視してください)

図1.ラック工具諸元

作図準備

  • 圧力角α
  • 基準円D=m\cdot z
  • 歯先円D_a=m\cdot (z+2h_a)
  • 歯底円D_f=m\cdot (z-2h_f)
  • 基礎円D_b=D\cdot cos(α)
  • 半径線:Y軸から時計回りに5~70°
図2.作業準備

作図の考え方

  • 歯元隅肉曲線を形成するラック歯先の丸み部の運動に着目
  • ラック工具による創成運動(ラックの平行運動+ワークの回転運動)させたあと、全体として回転分を巻き戻すことで、「ワーク固定」時の創成運動に変換。
図3.作図の考え方

ラックの平行移動

-ラックRθ移動を「矩形状パターン」で再現

  • このときワークは時計周りにθ回転
図4.ラック移動を「矩形状パターン」で表現

ラックの回転移動

  • ワークとラックを反時計回りにθ回転させることで、ワークが固定のときのラックの運動として扱える
  • 回転移動後のワークの中心半径が基礎円半径よりおおきくなれば、以後の角度は不要
  • 半径線(Y軸から時計回りに5~70°)とともに回転させると、角度の間違いが少ない
図5.ワークをもと位置に戻す

平行移動-回転移動の結果

  • 矩形配置だった円群は、楕円円弧状配置に変化
  • 円群のY軸側最外側を接続していくと歯元隅肉曲線だが、離散化による凹凸があり、使いにくい
  • 別手段として円群の中心を接続したスプラインのオフセットを求める
図6.70°まで実施した結果

滑らか包絡線を求める準備

円群の中心線をフィット点スプラインで接続

  • この曲線は「トロコイド曲線」
図7.円群の中心をスプライン接続

包絡線が歯元隅肉曲線

中心点スプラインのオフセット曲線が、求める滑らかな歯元隅肉曲線

  • オフセット距離は、ラック歯先の丸み半径
  • この曲線は「トロコイドの平行曲線」
  • エンドミルの中心軌跡と加工形状の関係
図8.円の中心を結んだ線のオフセット曲線が、円群の包絡線

歯車ソフト計算結果と一致

オフセット曲線は歯元隅肉曲線を再現
なお、CADによる、この方法は別記事を作成中に着想を得たもので、他で見たことはありません。多分オリジナルではないかと思います。

図9.オフセット曲線は歯元隅肉曲線を再現

ご参考:トロコイド曲線とその平行曲線

図10.トロコイド曲線とその平行曲線


インボリュート曲線の作図手順

対象歯車諸元
  • 歯数Z: 6
  • モジュールm: 1
  • 圧力角α: 20°
  • 歯末のたけha: 1.0
  • 歯元のたけ:hf 1.25
  • 頂隙係数ck: 0.25
  • ラック歯先の丸み係数ρ: 0.25

2. 作図準備

2.1 全体配置
  • 歯車中心を原点に設定
  • 歯車のトップ(12時位置)が歯部となるように配置
図1.歯の姿勢と求めるインボリュート曲線の位置
2.2 基本要素の作図

ラックの歯溝部中心線をY軸に、ピッチ線を歯車のピッチ点に一致させます。

  • ピッチ円Dp=m・z
  • 歯先円Da=m・(z+2ha)
  • 歯底円Df=m・(z-2hf)
  • 基礎円Db=Dp・cos(α)
  • ラック切れ刃mn(歯厚=歯溝幅=π/2)
  • 工具圧力角∠AOP(α=20°)
  • ピッチ点Pを通る基礎円の接線PA
図2.準備

3. インボリュート曲線の算出

インボリュート曲線は、巻き付いた円筒からピンと張った状態で糸をほぐすときの、糸の先端が描く軌跡を指します。この曲線をCADで再現させますが、最初に起点を定めます、

3.1 インボリュート起点Dの特定

インボリュート曲線の基礎円上の起点Dは、インボリュート曲線の性質より次の位置になります(標準歯車の場合。転位歯車では補正が必要)。

  • Y軸からの角度POD = 180/Z/2 + inv(α)
    • z=6, α=20°の場合: 15.854°

または、CADで線分APBの長さを計測し、基礎円直径Db/2で除すると、角度AODが求められます。これは圧力角20°を減じると、PODが得られます。

  • APB=1.76409,DP/2=2.819078∴AOD=35.8539deg
    • EOD=AOD-AOE=15.854deg
3.2 インボリュート作図用基礎円等分割線

インボリュート曲線を区間に分割して求めるために、以下の半径線を作図します。

  • 範囲: Dを基準位置として0°から70°
  • 刻み: 10°

作成方法: 円形状パターン(オブジェクト: OD, 分布: 部分的, 角度: -70, 数量: 8)

図3.円形状パターンの入力
図4.インボリュート作図用基礎円等分割線

4. インボリュート曲線の作成

4.1 「円筒からほどいてピンと張った糸」の作成

各半径線と基礎円交点から、円弧長と等しい長さの接線を引くと、「円筒からほどいてピンと張った糸」になります。

1. インボリュート起点Dから円弧長に等しい線分を作成

  • 円弧長a0a7は、基礎円半径3*cos(20),角度70°より、L=rθ=3*cos(20)*70/180*PIが求める長さ
    • 余白に水平線分を描き、長さ欄に「3*cos(20)*70/180*PI」を記入して作成
  • 長さa0a1,...,a0a6の作成
    • 長さDHの水平線分を「矩形状パターン」でY軸方向に「数量」8、「間隔」は0.2でコピー。
    • 最上段の右端と最下段の左端を結ぶ斜め線をひく
    • 斜め線のどちらか一方を「トリム」すると、10°円弧長の1,2,3,4,5,6,7倍の線分が得られる
図5.円弧長と等しい接線の準備


2. 線分の端点(b7,...,b1)を、円弧上の各点(a1,a2,...,a7)に対して「一致拘束」

図6.一致拘束と直交拘束

3. 各点で基礎円の接線となるよう、半径線に対して「直交拘束」を設定

4.2 インボリュート曲線の描画

D点から接線の先端を「フィット点スプライン」でつなぎます。歯先円を超えた最初の接線端点まで接続したら、歯先円との交点から先をトリムして、インボリュート曲線を完成させます。

図7.インボリュート曲線作図

5. 精度確認

歯車作成アドイン「igears」との比較

図8.igearsの厳密計算歯形との比較
  • 10°間隔での分割で十分な精度(学習用)
  • より厳密な検討には、基礎円付近でより細かい分割を推奨

注意点

  • 接線の一致拘束、直交拘束の際に形状が崩れることがあるので、長さ等の最低限の拘束をかけておく
  • 基礎円付近の曲率変化が大きいため、必要に応じて分割を細かくする


インボリュート曲線と歯元隅肉曲線の接続

アンダーカットのある場合

圧力角20°、転位ゼロの標準歯車は、歯数17以下でアンダーカットとなります。歯数14以下になると「かみ合い率の低下」などの実害が出るのですが、そのときのインボリュート曲線と歯元隅肉曲線は角度をもって交差します。その交点でトリムして、両曲線を接続します。

図1.アンダーカットのある場合

アンダーカットのない場合

歯数18以上の標準歯車は、インボリュート曲線と歯元隅肉曲線が、接線連続で接続します。したがって、目視で接線が一致していそうな点で、両曲線を接続し、余剰線をトリムします。

図2.アンダーカットのない場合

1歯の作成

歯先円弧、歯底円弧を追加して、ミラーコピーしたら、1歯分のスケッチが完成です。
本手順書ではここまでとします。

図3.歯先円、歯底円

以上です。お疲れさまでした。