経緯
筆者はFusion 360向けに「igears2」という歯車・遊星歯車作成アドインを開発し、無料で提供しています。一方で、オートデスク社のApp Storeにはさまざまな歯車作成アドインが存在し、その仕様を理解せずに利用しているユーザーもいるかもしれません。
そのため、App Storeで無料で提供されているアドインの中から、少なくとも平歯車を作成できるものをピックアップし、その仕様について調査しました。調査にあたって重視したのは次のことです。
- 技術的な正確さ:歯形、歯元の形状、転位、バックラッシが正しいか
- 準拠する歯車規格:JIS、AGMA、DINなどの各国で準拠する歯車規格
- 対応可能な歯車種類:平歯車、はすば歯車、内歯車、遊星歯車
ピックアップしたアドイン
選定条件に基づいて、以下のアドインを選びました。これらのアドインは無料であり、平行軸歯車を作成するために利用可能です。なお対応歯車に平行軸以外のウォーム、ベベル、ラックは記載していません。
番号 | 名称 | 入手先 | 対応歯車 |
(1) | SpurGear | 標準付属 | 平歯車 |
(2) | FM gears | AppStore | 平歯車、内歯車 |
(3) | GF Gear Generators | AppStore | 平歯車、ハスバ歯車、内歯車 |
(4) | Helical Gear Generator | AppStore | 平歯車、ハスバ歯車 |
(5) | Helical Gear plus | AppStore | 平歯車、ハスバ歯車、内歯車 |
評価基準
歯車の評価は、製造される分野や方法によって異なります。一般工業製品や趣味用途に合わせて作成されるか、モデルを使用してCAEを実行するか、ホブ加工や樹脂成型、3Dプリンタなどの方法で製造されるかによって、歯車の形状の妥当性が変わります。
例えば、3Dプリンタを使用して歯車を製造する場合、歯元と隅肉の形状は柔軟で自由に設計できます。一方で、ホブ加工の場合は工具の形状によって形状が決まります。
今回の評価では、ホブ加工後の歯車の形状をなるべく再現するモデルが望ましいとしました。
以下ご参考です。歯車図面において、歯の形状を具体的に描くのではなく、略図と要目表を使用するのは、JIS1701規格の「円筒歯車 - インボリュート歯車歯形」に基づいて加工されることを想定しているためです。この規格では、歯の形状ではなく、ラック工具の形状を指示しています。そのため、専門家向けの歯車設計ソフトウェアは特定の工具形状に合わせた歯の形状を生成することができます。また、筆者が作成した「igears2」というアドインも同様の機能を提供しています。
工具によって歯の形状が変わる場合でも、歯の設計諸元が同じならインボリュート歯面形状自体は変わりません。変化するのは、歯のかみ合い範囲外部分の先端の面取り形状や、歯元側のインボリュート面が終わって歯底と接続する際の隅肉曲線の形状です。この隅肉曲線の形状は、歯車の強度と耐久性にとって重要な特性です。
結論の抜粋
5種類のアドインを使ってみて、気になった点は以下の通りです。詳細は別記事にて報告します。
- 上記のアドインはどれも歯元隅肉曲線を再現しない
- 同じくアンダーカット歯形を再現しない
+ 誤った転位方式のアドインがある(ラックではなく歯形をシフト)(最新版は直っている)
- 誤った歯形の内歯車アドインがある(頂隙がない)
- バックラッシ設定できないアドインがある
- バックラッシが設定値の1/2のアドインがある
- AGMA規格のアドインがあり、歯たけがJISと異なる場合あり
所感
- 歯元隅肉曲線とアンダーカット歯形は、難易度が高いため、歯車とプログラムに詳しい人でないと厳しい。無料なのでユーザがそこまで要求していないと判断しているのかもしれない
- 一部のアドインは除き、ホビー用途であれば致命的な問題はなさそうである