歯車の形に興味のある人に

CADで歯の曲げ危険断面と歯形係数を求める

歯車の曲げ危険断面と歯形係数を計算で求める方法が日本歯車工業会JGMA401などで紹介されており、筆者の作成しているソフトでもその計算法で求めています。これをCADの手作業で求めて、歯の強度計算についての理解を深めようというのが本記事の主旨です。

そのためには正確な歯元隅肉曲線を作図するソフトが必要ですが、筆者が公開している「igears2」は厳密に歯元形状を計算するので、このような作業に向いています。または、小原工業様のソフト「GCSW」でも正確な歯形を求められます。

そのほかのアドイン、SpurGear,GF gear,FM gears,Helical Gear plusは、歯元が簡略図なので本記事の対象外です。

なお、本記事での対象は、ホブなどのラック型工具で創成歯切りされた歯車(工具で歯元隅肉形状が決まる)です。

必要寸法をCADで求める

(2023.08.17一部の手順と図を見直しました)
危険断面位置はもともと「放物線法(放物線と隅肉が接する位置が危険断面)」でスタートしましたが、その後「Hoferの30°接線法(30°線が隅肉に接する位置が危険断面)」が主流になります。ここでは30°接線法で求めます
以下の作業はFusion360と歯車作成アドイン「igears2」を使用しました

  1. 歯形の輪郭を「投影」「プロジェクト」でスケッチに取り込みます
  2. 基礎円を書きます
  3. 歯の内側に隅肉曲線に接する30°の線を書きます
  4. 隅肉曲線と接線の接点に点を打ちます。この位置が曲げの亀裂起点になる「危険断面位置」です
  5. 30°接点を通る水平線を引いて、反対側の隅肉との交点にも点を打ちます
  6. 隅肉の2点間の寸法を取ります。これが「危険断面幅Sf」です
  7. 歯先の角の点を通り基礎円に接する線を作成します
  8. その接線と水平線との角度が「歯先荷重角ω」です
  9. 接線と歯形中心線との交点に点を打ちます。これが「力の作用点」になります
  10. 危険断面から力の作用点までの長さが「作用点長さL」です

この手順で大事なのは、隅肉と30°接線の交点を正確に求めることです。隅肉はトロコイド曲線なので「拘束」「接線」コマンドで認識しませんでした。そこでトロコイド曲線の交点付近の3点で円を作成し、その円中心から30°の線を引いて、隅肉曲線との交点を求めました。
下図はモジュール1、圧力角20°、歯数20、歯元のたけ1.25、ラック歯先の丸み係数0.375の平歯車の歯形です。igears2で作成しました。

歯形各部の寸法測定手順

歯形係数の計算

歯形係数Y_fは次式で求めます。
Y_f=\dfrac{\cos ω}{\cos α} \cdot \dfrac{6L}{S_f^2 m}
ω:歯先荷重角
α:圧力角
L作用点長さ
S_f:危険断面幅
m:モジュール

前節で求めた値を入れてみましょう。
Y_f=\dfrac{\cos 29.51}{\cos 20} \cdot \dfrac{6*1.894}{1.93^2 *1}=2.825

いっぽう、理論計算の結果は「2.804」なので0.75%の誤差でした。そのときの入力値は
危険断面幅Sf = 1.944 作用点長さL = 1.907 歯先荷重角29.512
です。もともと歯形を「片持ちはり」で近似する手法であり、規格書に記載の歯形係数図表からの読み取り誤差を考えると、この精度で問題ないと思います。

なお、筆者作成のWindowsアプリ「involuteGearDesign」でも歯形係数理論計算値を出力します。

歯元の曲げ応力計算

歯先荷重による歯元の曲げ応力σ_bは次式です。
σ_b=\dfrac{Y_f\cdot P\cdot m}{b}
P:接線荷重
m:モジュール
b:歯幅

実際には、これをベースにかみ合い率補正、ハスバ補正などの補正項を加えて利用しています。詳しくは日本歯車工業会JGMA401,6101をご覧ください。「JGMA401-01:1974平歯車及びはすば歯車の曲げ強さ計算式」は今回計算のもので、歯元の応力集中を考慮しない公称応力計算です。「JGMA6102-01:1989平歯車及びはすば歯車の曲げ強さ計算式」は、「ISO 6336-1 平歯車及びはすば歯車の負荷容量計算方法」をベースにして応力集中を考慮に入れた実応力計算です。
また、「JIS B1759:2019 プラスチック円筒歯車の曲げ強度評価方法」にも、強度計算式や歯形係数の求め方が記載されています。

(2023.08.17追記)
隅肉曲線と30°接線の接点を正確に求めるために、kantoku様が公開しているスクリプトを少し修正しました。この修正スクリプトにより、モジュール1のとき30±0.01°の範囲内で接線を出力することが可能となりました。その結果、以前の危険断面位置から0.02mm歯元に移動した点が正しいことが確認されました。

新たに寸法を取り直すと、危険断面幅Sfが1.952、作用点長さLが1.914となりました。この情報を用いて歯形係数を計算すると、以下のようになります。

歯形係数Y_f=\dfrac{\cos 29.51}{\cos 20} \cdot \dfrac{6*1.914}{1.952^2 *1}=2.791

これにより、誤差が0.46%まで向上しました。

関連投稿

隅肉曲線と30°接線の接点を正確に求める新しい方法を提案しました。誤差0.2%以下なので、もはや正解です。
次の記事をご覧ください。
involutegearsoft.hatenablog.com

数値計算で求める場合は、こちらにプログラムを公開しています。
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