(こちらの記事も合わせてご覧ください。「 CADで内歯車創成図を書いて3Dモデル化する(1)」)
質問です
次に示す2つの遊星歯車のうち、どちらが正しい内歯車でしょうか。
正解は「Aタイプ:内歯車が凹歯形」です。
Bタイプを登場させた理由は、Bタイプで作り方を説明しているYoutube動画があるからです(割と有名どころで登録者数2.6万人)。Autodesk社公式ストアの歯車アドインの中にも、このタイプがあります。
正しくない内歯車の作り方
その作り方を下図に示しますが、機構学における歯面の成立性条件を無視したものになっています。
歯形の成立条件
歯車の歯形形状を決める大切な要素は「等速性」です。例えば、二つの歯車があり、一方が他方を駆動するとき、駆動側の歯車の回転数が一定であれば、従動側の歯車も回転が進み遅れることなく一定の速度で回転しなければなりません。
機構学では、「等速性」というのは、「任意の瞬間に歯と歯との接触点で、歯形に立てた共通法線が常にピッチ点を通過すること」です。これが「歯形の成立条件」と言われ、等速性を確保するために重要な要素なのです。
Aタイプは「歯形の成立条件」を満足しますが、Bタイプは満足しません。
また、Bタイプの内歯車歯元が逃げているため、ピニオン歯先が接触できないので、ほとんどのインボリュート歯面がかみ合いの役に立っていません。
どの動画のことか気になる人は、Youtube「遊星ギヤを**」から探してください。追記2を参照してください。コメント欄でも内歯の作り方がおかしいと指摘されています。
正しい内歯車の作り方は、続編で紹介します。
小原歯車様の計算結果
参考のため、小原歯車様の計算ソフトGCSWによる内歯車のかみ合い計算です。内歯車が凹歯形です。
内歯車ってどうやって作るの(追記)
内歯車は、ギヤシェーパによる創成加工で作る場合が多く、他にはブローチ加工や最近はスカイビングなどの工法も出ています。
ギヤシェーパというのは、インボリュート外歯車の歯を切れ刃に置き換えたカッターが、歯車ブランク素材の内周を同期回転しながら往復動して内歯を形成します。この時できるインボリュートは、瞬間瞬間に外歯車を転写した形状の累積(包絡線)なので、凹形状になります。
(内容を一部修正、削除しました。2023.08.10)
下図はギヤシェーパを模してFusion360で作成したものです。内側の外歯車がカッター、外のリングが内歯車です。
(追記2023.08.10)
動画の相手様に了解いただきました(追記2)
本内容について相手様とメールでやりとりしていましたが、大変真摯にご対応いただきました。間違った情報を発信すべきではないとのことで、動画に間違っていることを記載するとともに、このブログにリンクを張りたいとのお申し出があり、お受けすることにしました。さらに、動画へのリンク記載をご希望されましたので、以下に貼っておきます。メイカーズラブ様のご対応に感謝いたします(2023.08.08)。
【楽しい機構設計】Fusion360で遊星ギヤを作る - YouTube