(24.01.01追加修正)
前回の記事「正しくない内歯車」
では、内歯車を凸歯面で作成しているサイトがありますが、正しくは凹歯面です、という内容でした。
今回は、内歯車でよくあるもう一つの間違いとして「頂隙(相手歯先とのクリアランス)」の有無について記載し、それを設けることによって、「正しい作り方」というタイトルにしていますが、厳密に正しい歯形ではありません。もう少し厳密に「正しい内歯車の作成方法」を望まれる読者の方は、当ブログの次の記事をお勧めします。
CADで内歯車創成図を書いて3Dモデル化する(1) - 歯車のハナシ
CADで内歯車創成図を書いて3Dモデル化する(2、正確な歯形) - 歯車のハナシ
CADで内歯車創成図を書いて3Dモデル化する(3) - 歯車のハナシ
内歯車の歯元隅肉曲線の計算(1) - 歯車のハナシ
内歯車の歯元隅肉曲線の計算(2) - 歯車のハナシ
LibreCADで外歯車、内歯車、ラック歯車創成図が簡単に描ける(1) - 歯車のハナシ
(追記終了)
正しいのはどちら
次に示す2つの遊星歯車のうち、どちらが正しい内歯車でしょうか。
正解は「Aタイプ」です。
Aタイプには、自分の歯先と相手の歯底、自分の歯底と相手の歯先の間にクリアランス(これを頂隙といいます)があります。しかしBタイプにはそれがありません。
そのためBタイプは両歯車が干渉する可能性があります。
このケースは多くみられ、一部の歯車作成プログラムでもこうなっていますから注意が必要です。
頂隙のない内歯車の作り方
これは簡単で、作ろうとする内歯車と同諸元の外歯車を作成し、ブーリアン演算で内歯車の外径相当から切り取ります。当然ながら、元の外歯車と打ち抜いてできた内歯車には隙間はありません。
社外アドインを利用した内歯車の作成
Fusion 360をお使いの場合は、内歯車モデル化可能なアドインの内、AutoDesk社公式ストアのアドイン「Helical Gear plus」が頂隙付きですが、「GF gear generoter」は頂隙なしとなります。
当方作成の歯形作成アドイン「igears2」は、頂隙付きの内歯車を出力します。
標準アドインでの正しい内歯車の作り方
Fusion 360付属の「spurgear」は内歯車に対応していないので、いったん外歯車を作ります。そのあとで頂隙確保のための変形が必要です。
具体的には、標準歯車は、歯末のたけ*11、歯元のたけ*21.25モジュールですが、これを歯末のたけ1.25、歯元のたけ1モジュールとして、あとは作ろうとする内歯車と同諸元の外歯車を作成します。次に外径円を作成して、歯の輪郭との間のプロフィル押し出して内歯車を作ります。
できあがった内歯車と標準歯車を組み合わせると、Aタイプのようなクリアランスを設定することができます。
Fusion 360付属の「spurgear」を使った実際の手順は次のようになります。
いったん狙いの諸元(歯元フィレットは小さく0.01程度)で外歯車を作成 | |
グループ化されたヒストリー 「+」クリックして展開 |
|
展開されたヒストリー | |
黒縦線を動かして3ステップ巻き戻す | |
歯元のたけを1.25⇒1に設定するため、歯底の面をクリックして「プレス/プル」機能で半径を0.25モジュール拡大 | |
歯先のたけを1⇒1.25に設定するため、歯先の面をクリックして「プレス/プル」で0.25モジュール伸ばす。このとき「オフセットタイプ」を「新規オフセット」にすると先細り形状が得られる | |
円形パターンで歯数分配置し、結合で一体化 | |
外径円作成して、歯の輪郭との間のプロフィルを押し出すと完成。ベースの外歯車は非表示化または削除 |
(2023.08.11追記)
内歯車の歯数は圧力角20°、転位0のときは34枚以上必要です。それより歯数が少ないと、内歯の歯先にインボリュート曲線ではない部分が生じます。これは次の条件として知られています。
- 内歯車の基礎円が歯先円より小さいこと
この条件は、基礎円より外側でしかインボリュート曲線が定義できないことからきています。標準歯車の内歯車歯数34以下では、この条件を満足しないので製作できません。
歯形作成プログラム、アドインの紹介
Fusion 360以外の場合は、当方作成の無償歯車諸元設計プログラム「involuteGearDesign」で頂隙付き内歯車のDXFを出力できるので、ご利用ください。
また、当方作成のFusion360用ジョイント機能付き歯車作成アドイン「igears2」(無償)を使えば、内歯車はもちろん、回転する遊星歯車を簡単に作ることができます。
[歯車の設計とモデリングツール] https://involutegearsoft.blogspot.com/
(2023.09.09追記)タイトルで「正しい内歯車」と言い切っていますが、厳密に正しいわけではありません。頂隙がついて凹歯面になった程度です。外歯車の場合は、ラック工具による加工に絞って形状を計算しており、その工法を使う分には正しい歯形です。内歯車はギヤシェーパがほとんどだと思いますが、モデルとしては外歯車の反転として作成するので、トロコイド部分の位置や歯先の丸み等が実形状とわずかに違います。
また、「歯先の面を「プレス/プル」で引っ張る」ことで頂隙部分を確保する記載があります。「プレス/プル」した面形状はインボリュートではないのですが、かみ合いに関与しない部位なのでそのままにしています。