歯車の形に興味のある人に

CADで内歯車創成図を書いて3Dモデル化する(1)

経緯

以前の記事で「正しい内歯車の作り方」について述べましたが、外歯車の輪郭を用いているので、本来の内歯車とは形状が一部異なります。今回は、より正確な方法で、内歯車のギヤシェーパによる創成法をCAD上で再現した「(前より)正しい内歯車の作り方」を紹介しようと思います。とはいえ、実務として日常の内歯車設計には向いておらず、内歯車の創成原理の理解用と思ってください。

後で詳しく述べますが、同歯数の外歯車と内歯車は、インボリュート曲線自体は同じなのですが、歯末・歯元の歯たけが異なることと、隅肉トロコイド曲線のできる位置が違います。そのあたりを再現するモデル作成手順となっています。

今回は、AUTODESK Fusionを使って創成図作成・3Dモデル化までをざっくりと説明し、詳細は次回以降とします。

(追記)
フリーの2D-CAD LibreCADを使った例です。
involutegearsoft.hatenablog.com

概要

内歯車の工法としてもっともポピュラーなのは、ピニオンカッターを工具としギヤシェーパで往復動させての創成歯切加工です。ここでは普通のインボリュートギヤをカッターとみなして、その軌跡をとることで創成図を作成します。
仕様は、ピニオンカッタ歯数Zp30、内歯車歯数Zr125、モジュール2、圧力角20°としました。

図1.モデル全体

ピニオンカッターの準備

外歯車で代用するのですが、標準の外歯車に対して以下の変更を行います。

  • 歯末のたけを1.25とする(標準外歯車は1.0)
  • 歯先にフィレット0.2m付与
  • 歯元のラック歯先丸み係数を0.1とする(標準外歯車は0.38)
図2.ピニオンカッター

ただし、今回のピニオンカッターモデルは歯元のたけ係数1.5で作成というミスをしていますが、歯末のたけは1.25で合っているので、内歯車の形状には影響ありません。

ピニオンカッターを「円形状パターン」コピー

創成図は、同じ歯形を位相を変えて複数重ね書きしたものですが、そのために24°範囲を12分割してピニオンカッター軸周りにコピーします。これで2°きざみで回転が進行していることになります。「24」はピニオンカッターの歯数30なので、1歯あたり360/30=12°の2倍としました。

図3.自転

逆回転の公転を与える

ピニオンが24°回転したら、内歯車素材は同じ向きに24×Zs/Zr°回転します。創成図は内歯車素材を固定して考えるので、全体を内歯車軸周りに逆回転を与えて内歯車素材の回転をキャンセルします。
このとき、内歯車素材は、正回転も逆回転も自軸周りなので、運動は打ち消されるのですが、ピニオンカッタは、正回転はピニオン軸、逆回転は内歯車素材軸となって、元の姿勢に戻りません。その姿勢が素材固定時の工具軌跡=「創成図」となります。

図4.公転

ミラーコピー

半分完成したらミラーコピーして、近寄って遠ざかるまでをモデル化します。

図5.ミラーコピー

創成図完成

ミラーコピーで内歯車の創成図は完成です。回転運動だけなので、外歯車の創成図作成より簡単かも知れません。

なお、内歯車は、この創成図から得られる輪郭線の反転型ではありません。図に薄く青の線が見えるはずですが、内歯車素材の歯先径に相当する径を表しています。この径で素材の内周は旋削加工されているので、実体はその径より外側になります。

なお、小原歯車工業様のサイトで内歯車の創成図計算が可能(無料、登録要)です。上記の結果とも見比べましたが、前述の歯末のたけの違いを除いて、違いはないように思います。

図6.創成図

歯面形状比較

次に、外歯車を反転して作成した内歯車(ただし歯末のたけは1.25)と、今回の工法を考慮したモデルとの歯面形状を比較してみます。
違いは、図7に示すように歯先と歯元にあります。今回のモデルは、歯先A部がピン角で、歯元B部にフィレットがありますが、外歯車反転方式では逆に、歯先にフィレット、歯元がピン角になります。

Bのフィレットは、ピニオンカッターのトロコイド運動+歯先丸みによるものです。A'のフィレットは、外歯車の歯元隅肉曲線がトロコイド曲線であり、それを反転した結果あらわれたものです。

同じインボリュート曲線でも、外側から加工するか、中心側から加工するかで、トロコイド運動する位置が入れ替わったともいえます。

もし仮に、3Dプリンタなどで内歯車を製作する際に、外歯車反転方式で作ると、歯元がピン角で折損しやすいことと、歯先に丸みがある分だけインボリュート曲線が短くなるのでかみ合い率が低下することになります。シビアな用途では使わないと思いますが、ねんのため。

図7. 断面形状比較

3Dモデル

完成した創成図から3Dモデルを作成した結果を下図に示します。手前が今回モデルで、奥側が外歯車反転タイプです。
今回モデルは、歯筋方向に線が多くてきれいではないのですが、多断面を重ねたための多角形のエッジが出たものです。

図8.3Dモデル比較

なお、Fusion360の歯車アドイン(フリーのもの)をいくつか調べましたが、内歯車は外歯車反転型か、もしくは誤った歯形でした。当方作成の歯車作成ソフト/アドインは2種類ありますが、いずれも外歯車反転タイプの内歯です。
というか、知る限り、フリーで正確な内歯車を描けるのは、小原歯車工業様のサイトだけではないでしょうか。訂正します。小原歯車工業様のモデルは外歯車反転タイプではないですが、作図用ピニオンカッタには、歯先の丸みが付いていませんでしたので、当方作成のものより隅肉曲線の曲率半径が小さくなります(2023.12.21)。

次回へ続きます。