歯車の形に興味のある人に

CADで歯の曲げ危険断面と歯形係数を求める(続き)

経緯

ブログ記事「CADで歯の曲げ危険断面と歯形係数を求める」では、危険断面位置を求める際に30°接線法を使いました。
involutegearsoft.hatenablog.com

ただ、正確に、隅肉曲線と30°接線との接点を求めるのは、ちょっと難しく、最終的にスクリプトに頼りました。しかし、その(改造した)スクリプトは公開していない。。。

その後、Fusion360だけでほぼ正確に30°接線が求められる方法があったので、(続き)として公開します。

提案の方法

Fusion360のスケッチパレットにある「曲率コーム」が、法線方向を示すことを利用します。

実際の手順概要は以下です。詳細は次のセクションに示します。

  1. 歯元隅肉曲線を準備する
  2. 30°接線に垂直な60°線を準備する
  3. スケッチパレットから歯元隅肉曲線の「曲率コーム」を表示する
  4. 60°線を動かし、曲率コーム(法線)に平行な位置を目視で見つける
  5. 60°線と隅肉曲線の交点が危険断面位置である
図1.今回提案の方法と計測結果

目視で、というと心配になるかもしれませんが、テストケースでは理論値の0.2%以内0.1%以下にたどり着いています。

手順の詳細

❶歯形曲線を準備します
❷スケッチで60°線を歯元隅肉曲線の近くに作図します。角度指定にとどめ、マウスで動かせるようにしておきます。

図2.歯形と60°線

❸歯元隅肉曲線を選択します。

図3.歯元隅肉曲線選択

❹スケッチパレットの「コンテキストオプション」「曲率コーム」をクリックします。
❺曲率分布が表示されます。名称は曲率ですが、方向は法線をあらわしています。

図4.曲率コーム表示

❻「曲率表示設定」の「密度」スライドバーを最大にします。この図では256本になっており、線の長さが0.9222なので3.6μm間隔になります。

図5.曲率コーム密度最大化

❼ズームアップして、60°線を動かし、曲率コームと平行になる位置を見つけます。
❽平行になった60°線と歯元隅肉曲線の交点が危険断面位置なので、ポイントします。

図6.60°線と一致する曲率コームを探す

❾水平線を、ポイント位置から反対側の歯元隅肉曲線まで引きます。
❿水平線の長さを計測します。
⓫危険断面から力の作用点までの長さを計測します。力の作用点の求め方は、「CADで歯の曲げ危険断面と歯形係数を求める」を参照ください。

図7.歯厚と作用点までの長さ計測

提案方法の計測結果と誤差

計算諸元

歯車仕様は次の3種類です。

項目 仕様1 2 3
歯数 20 20 20
モジュール 1 1 10
圧力角 20° 20 20
頂隙係数 0.25 0.25 0.25
ラック歯先の丸み係数 0.375 0.380 0.375

歯形係数計算式は、上記記事と同じなので省略します。

仕様別計算結果

仕様1結果

前回と同じ仕様です。

項目 測定値 理論値
危険断面厚さ 1.9439 1.9438910
作用点までの長さ 1.907 1.9071201
歯形係数 2.8042 2.82.804444

誤差+0.007%

仕様2結果

ラック歯先の丸み係数0.375から0.380に変更しています。

項目 測定値 理論値
危険断面厚さ 1.9444 1.9446032
作用点までの長さ 1.9054 1.905759
歯形係数 2.8005 2.800391

誤差+0.014%

仕様3結果

仕様1に対してモジュール10にしています。

項目 測定値 理論値
危険断面厚さ 19.4331 19.438910
作用点までの長さ 19.0648 19.071201
歯形係数 2.80518 2.80444485

誤差+0.27%(追記で修正あり)

結論

正解といっていい値だと思います。これ以上は望みません。

実務では、こういうやりかたで歯形係数を求めることはないと思いますが、歯車の強度計算がブラックボックス化してしまわないように、手作業での求め方を公開しました。歯形係数が何を意味しているのか、ということは触れていないのですが、次の機会で書こうかと思います。

(2023.10.14 追記)
上記結果中で、仕様3の結果が仕様1より悪化している理由が不明でした。サイズが10倍になっているだけなので、誤差は同一のはず。
再確認の結果、曲率コームの間隔も10倍になっているため、測定誤差が増加したものと判明しました。その結果が下表で、0.1%以下になりってます。

こういう場合の角度読み取りは、60°線に、上下のオフセット0.03(曲率コームピッチ相当)を加えた3本と、曲率コームを比較するのがよいようです(付図1参照)。

仕様3再測定結果
項目 測定値 理論値
危険断面厚さ 19.4478 19.438910
作用点までの長さ 19.0775 19.071201
歯形係数 2.802807 2.80444485

誤差-0.058%

付図1.3本の60°線で確認

ご参考で、歯形係数図を記載しておきます。見方は、横軸の指定歯数(今回は20)から垂直線を引いて、設計の転位係数線(今回は0)とぶつかった点で水平線を引き、縦軸の歯形係数を読み取ります。今回は「2.8」で、それ以上の小数位は読み取れません。
この図表は、Fusion360とは独立した環境のPythonで理論式から計算しています。
計算仕様:歯数10~400、転位係数∔1~-0.4、圧力角20°、頂隙係数0.25、ラック歯先丸み係数0.375

付図2.歯形係数図

以上です。