ラビニヨ方式遊星歯車の変速比の算出法

経緯

以前のブログで「ラビニヨ方式遊星歯車列」を取り上げましたが、技術的なことはあまり書いていませんでした。
今回は4速自動変速機に使用した場合の変速比の求め方について、書いてみます。

変速比の求め方

遊星歯車の変速比を求める方法はいくつかあって、代表的なものは以下の3つです。

  1. 速度線図法(共線法)
  2. のり付け法
  3. 関係速度計算式

どれか一つだけを使うというより、必要に応じて使いやすいほうを選んでいます。
今回はまず、速度線図法を取り上げますが、これは線図を使って解くので、CADを利用してみましょう。

変速比の定義

自動変速機では、入出力比率について、速度比、トルク比、変速比、減速比、ギヤ比等の用語があります。あれこれ使うのも大変なので、変速比で統一しますが、その定義は「入力回転数/出力回転数」です。
ただ、話の性質上、速度比が出てくる場合もあります。定義は「出力回転数/入力回転数」です。

ラビニヨ方式遊星歯車列の変速比

いきなりラビニヨが登場すると、慣れない人には厳しいかも知れませんが、あえてやってみます。
その前に必要なのは、各歯数と、入出力と固定要素情報です。

歯数情報

歯数設定は下表の通りとします。ラビニヨは「シングルピニオンプラネタリ」と「ダブルピニオンプラネタリ」がセットになった複合歯車列で、キャリヤとリングギヤ、ロングピニオンを共用しています。ここでは、シングルピニオン側をフロント、ダブルピニオン側をリヤとして区別します。ショートピニオンはリヤ側に属し、ロングピニオンは、フロント、リヤ双方のメンバーとなっています。

ギヤ 記号 シングルピニオン側 ダブルピニオン側
構成
-
フロントサンギヤ S1 31 - -
リヤサンギヤ S2 - 26 -
ショートピニオン P1 - 20 -
ロングピニオン P2 20 20 共有
リングギヤ R 71 71 共有
図1.各歯車の名称

各変速段での要素作動表

自動変速の各段は、遊星歯車列の各要素を、段ごとにつなぎ変えて入力要素にしたり固定要素にして、望む変速比を得ます。次の作動表に入出力と固定要素を記します。なお、出力要素は全段リングギヤです。

入力 固定 出力 備考
1速 リヤサンギヤ キャリヤ リングギヤ 減速、ダブルピニオン側のみ使用
2速 リヤサンギヤ フロントサン リングギヤ 減速
3速 リヤサンギヤ、キャリヤ - リングギヤ 一体運動、直結
4速 キャリヤ フロントサン リングギヤ 増速
後退 フロントサン キャリヤ リングギヤ 後退、シングルピニオン側のみ使用

速度線図法の補助線作図

各段で共通利用する部分を作図しておきます。

  1. 原点を決めて、高さ1の垂直線と原点から両側に幅1の水平線作成
  2. 原点の左26/31の位置に高さ1の垂直線を作成。
  3. 原点の右26/71と1にも同様の垂直線
  4. y=1の水平線を左右の垂直線間に作成
  5. 垂直線は、それぞれ、z31フロントサンギヤ、キャリヤ、z71リングギヤ、z26リヤサンギヤの回転速度を表すので、軸にFS、C、R、RSのラベルを貼る。
  6. 水平線の2本は、上が回転数「1」、下が回転数「0」を表し、入力軸なら回転数1、固定軸なら回転数0の位置に配置して、出力軸の回転を求める
図.ベース

入力要素の回転速度を「1」としたときの出力速度を計算することが本来の目的ですが、CADで測ってみましょう。

解説

速度線図法の特徴は、横軸が歯数の逆数になっていることです。
その理由は、
かみ合っている歯車は、接線速度が等しいので、
v=r_1\omega_1=r_2\omega_2 \therefore \omega_1=1/z_1 \cdot z_2*\omega_2
が成り立ちます。この式を見ると、回転数\omega_1が歯数の逆数1/z_1に比例しています。

速度線図では、垂直軸の位置は歯数の逆数で決まりますが、それでは原点のどちら側に書けばいいのでしょうか。
答えは、キャリヤ固定したときに、サンギヤを回してみて同回転の歯車と逆回転の歯車に分けます。その結果で、線図原点の左右に振り分けます。
今回は、キャリヤ固定でリヤサンギヤを右回転したときに、リングは右回転、フロントサンギヤは左回転したので、このような配置になりました。

1速

この変速段はリヤサンギヤ入力、キャリヤ固定なので、入力リヤサンギヤRS軸の速度1の点から、固定するキャリアC軸の回転ゼロ位置を直線で結びます。
途中でR軸と交差するので、交点をG1とします。G1点のx軸からの高さをCADで求めます。

G1の高さは0.3662でした。したがって、速度比は0.3662、速度比の逆数である速変速比は2.730です。入力を「1」に基準化してあるので、測った数値がそのまま速度比に相当します。

図.1速の速度線図

この線図では、横軸の表記を変えています。自動変速機の遊星歯車でよく使われる「ρ=サンギヤ歯数/リングギヤ歯数 <1」表記です。
ρ1=31/71、ρ2=26/71ですから、ρ2/ρ1=26/31となります。

解説

本来は、速度線図法は、座標値を求めるのではなく、次のようにして計算式を求めるのに使います。
原点の右側に相似の三角形が見えます。底辺が1、高さが1の青の三角形と、底辺がρ1=26/71で高さが未知の赤の三角形です。この情報から未知の高さを求めると、1:1=26/71:xなので、x=26/71となります。このxは速度比ですから、変速比は逆数の1/x=71/26=2.7307です
一般化すると

i_{1st}=Z_{R} / Z_{RS}
で、ダブルピニオン側だけでサンギヤ駆動、キャリヤ固定、リングギヤ固定の単純なモデルでした。
次にρで計算しますが、計算するまでもなく、速度比はρ2だとみて分かります。
i_{1st}=1/ \rho_2
ちなみに、ダブルピニオンプラネタリは、アイドラが2個あるので、キャリヤ固定でサンギヤを回転すると、同じ方向でリングギヤが回転します。シングルピニオンギヤはアイドラ1個なので、キャリヤ固定するとサンギヤとリングギヤは互いに逆回転します。こっちは「後退」に使います。

2速

作動表では、1速のキャリヤを開放して、セカンドサンギヤを固定します。これを「変速」といいます。入力要素は変わっていないので、速度線図でもキャリヤ固定位置からセカンドサンギヤ固定に変えて線を引きなおしましょう。
次に引き直した直線とR軸の交点G2のY座標を求めます。CADですからx軸からG2点までの長さを計測します。すると「0.655」と出るはずですが、これは速度比なので、変速比は逆数の「1.526」が変速比です。

図.2速
解説

2速はちょっとややこしいです。入力はダブルピニオン側ですが、固定しているのはシングルピニオン側なので、1速と違いどちらの歯車も使います。速度線図を見ると、やはり青の直角三角形の中にG2点を高さにする赤の三角形があります。その関係を式にして、変速比は次式より
(26/31+1):1=(26/31+26/71):x
\frac{(26/31+1)}{(26/31+26/71)}=1/x\\1/x=\frac{1349}{884}=1.5260
となるので、2速の変速比は1.526です。
これを一般式にすると

i_{2nd}=\dfrac{71}{26}\dfrac{26+31}{31+71}=\dfrac{Z_R}{Z_{RS}}\dfrac{Z_{FS}+Z_{RS}}{Z_R+Z_{}}
または
i_{2nd}=\frac{\rho_2/\rho_1+1}{\rho_2/\rho_1+\rho_2}=\frac{\rho_1+\rho_2}{\rho_2(1+\rho_1)}

3速

2速から3速ヘはセカンドサンギヤを開放してキャリアに接続します。
作動表では、3速時は固定要素がなく、フロントサンギヤとキャリヤに入力となっています。
遊星歯車は、同じ回転数が別々の軸に入力されると、一体回転を始めます。3速もその状態なので、入力と出力が直結状態になり、変速比は「1」です。

i_{3rd}=1

図.3速

4速

3速から4速へはリヤサンギヤを開放してフロントサンギヤを固定します。
2速と同じくフロントサンギヤを固定しますが、入力をキャリヤに変えます。この変速段は、入力が「1」ですが、出力はそれより高い「1.4366」が得られます。これは「増速」「オーバードライブ」と言われます。したがって変速比は1/1.4366=0.696となります。

変速比を計算で求めましょう。
青の三角形の底辺はρ2/ρ1+ρ2で高さがx、赤の三角形の底辺はρ2/ρ1で高さが1ですから、速度比は
x=\frac{\rho_2/\rho_1+\rho_2}{\rho_2/\rho_1}=1+\rho_1
これより変速比は

i_{4th}=\frac{1}{\rho_1+1}
となります。

図.4速

後退

この段はシングルピニオンプラネタリだけを使います。シングルピニオンプラネタリはキャリヤを固定すると、サンギヤとリングギヤは逆回転するので、作動表もそのようになっています。つまりフロントサンギヤ入力、キャリヤ固定です。測度をCADで測ると0.437なので、変速比はその逆数の2.288となります。

計算で求めるには速度比\frac{\rho_2/\rho_1}{\rho_2}=\rho_1、変速比は

i_{rev}=1/\rho_1
です。

図.後退

結果

すべての段の変速比は次の通りです。

変速段 変速比の式 今回の変速比
1速 ρ2 2.730
2速 \frac{\rho_1+\rho_2}{\rho_2(1+\rho_1)} 1.526
3速 - 1.000
4速 \frac{1}{\rho_1+1} 0.696
後退 ρ1 2.23

全体でみると

下図に、いままでの結果を全て載せました。出力軸であるリングギヤの回転数を見ると、1速から4速までがきれいに並んでいます。つまり入力回転が一定でも、シフトアップすると車速が上がっていく状態をあらわしています。4段や6段の自動変速機なら、こんな感じで1本の出力軸上に描けるのですが、8速以上になってくると要素のつなぎ変え等があって、ひとつの絵にまとめるのが困難になってきます(慣れればできるかも)。

図.全変速段

(ご参考)ラビニヨの事例

ZF 6HP transmission - Wikipedia

2023.10.19
内容に誤りがあったので、本セクションは削除しました。

以上です。