経緯
ダブルピニオン遊星歯車は、ラビニヨ遊星歯車はじめ、自動車用自動変速機でよく使われます。ところが自作のFusion360用歯車作成アドインでは、シングルピニオン遊星歯車は作成可能ですが、ダブルピニオン遊星歯車はメニューにありません。
ネットの情報も多くない中で、自力でダブルピニオン遊星歯車を作図するとき悩むのは、
- 歯数の成立性
- 2個のピニオンの配置方法
- 各ギヤの位相合わせ
ではないかと思います。
そこで、自分なりの方法を公開しますから、参考になれば。
歯数の等配置条件
シングルピニオンとダブルピニオン遊星歯車の等配置条件は下表の通りです。
ギヤ | シングルピニオン遊星歯車 | ダブルピニオン遊星歯車 |
構成 | ||
等配条件 |
記号:
:リングギヤ歯数
:サンギヤ歯数
:第1ピニオン歯数
:第2ピニオン歯数
:第1ピニオン+第2ピニオンセット個数
:正の整数
シングルピニオン遊星歯車の等配条件は、私の別HP「遊星歯車の等配条件」に導出方法を書きました。
ここでは「ダブルピニオン遊星歯車」の式の導出を書いてみましょう。
ダブルピニオン遊星歯車の等配条件式
下図は、ダブルピニオン遊星歯車の隣接するピニオンで構成される閉曲線をあらわしています(太線)。
ダブルピニオン遊星歯車は、図1の隣接する歯車のピッチ円でつないた線abcde...haで示す閉曲線が、円周ピッチの整数倍でなければなりません。そうしないと、1周で余剰か不足が生じるので、かみ合えません。
図1のピニオン部分を見てみると、#1-1ピニオン車のab円弧と#3-1ピニオンのef円弧は、足すと360°の円になります。残りのピニオンもそうですから、ピニオン部分は、円周ピッチの整数倍になることが確定なので、検討から外します。
残りのリングギヤ円弧部とサンギヤ円弧部をみていくことにします。
円周長はπD、歯車のピッチ円直径はD=mZ(m:モジュール、z:歯数)ですから、歯車のピッチ円周長はπmzとして求められます。したがって
リングギヤ円弧fghaは、リングギヤピッチ円1周から、円弧長afを引いた長さに等しいので
サンギヤ円弧cdは、ピニオン数Npで分割された長さに等しいので
で表されます。
両者の和がピッチの整数倍になる必要があるので
で除して
移項整理すると
あらためてとおけば、次式を得ます。
シングルピニオン遊星歯車と、正負が逆になったのは、ピニオンのかみ合いが一つ多いためです。どういうことかというと、ピニオンがダブルなので、サンギヤの回転方向に対しリングギヤの回転が同一です。これはシングルピニオンとは逆になるので、歯数を相殺する方向が逆になったためです。
ピニオン配置
リングギヤピッチ円径mZr、サンギヤピッチ円径mZsを、原点中心に作図します。
第1ピニオンZp1ピッチ円が、リングギヤピッチ円に接するためには、ピニオン中心のy座標をm(Zr-Zp1)/2におきます。
第1ピニオン中心点から長さm(Zp1+Zp2)/2、サンギヤ中心点からm(Zs+Zp2)/2の点が第2ピニオンの中心軸です。
ここで
中心距離
余弦定理より各内角は
第2ピニオン中心軸の座標は次式です。
例題
次の仕様は、ダブルピニオン遊星歯車の等配条件を満たしています。第1と第2ピニオンは簡単のため同歯数にしました。
:リングギヤ歯数73
:サンギヤ歯数28
:第1ピニオン歯数19
:第2ピニオン歯数19
:第1ピニオン+第2ピニオンセット個数3
作図結果
まずは、リングギヤと第1ピニオンの位相をあわせただけの状態が上図です。第1ピニオンのトップ(12時位置)は歯部をセットし、リングギヤは歯溝が来るようにセットします。残りのギヤもトップ(12時位置)に歯部をセットした状態です。リングギヤ×第1ピニオンを除いて、かみ合っていません。
次回に続きます。