前回はピニオンカッタ歯先の丸み中心軌跡の計算を、創成運動に相当する座標変換で行いました。その結果、自分や相手歯数によって、形状が異なることが分かりました。この曲線はいったい何者か、というのが今回のテーマです。
前回の計算範囲を拡張する
前回はかみ合い前後の90°について、歯先丸み中心の軌跡を求めました。これを360°の範囲に拡大すると次のようになります。
Zr125基準円の内側に、4つの丸みと、基準円の外に突き出した4か所のループがあります。ループは、今まで内歯車の創成図で見ていた、歯先丸み中心の軌跡と一致します。
曲線の正体
これを見ると「あー、あれか」と気が付く人もいると思いますが、そうです。これは「内トロコイド曲線」です。
内トロコイド曲線をWikiPediaで見ると次式が書かれています。
これに今回の仕様を適用すると(m=1とします)
定円半径
動円半径
描画点半径
です。描画点半径とは動円外部の定点ですが、今回についていえば「歯先丸み中心の半径」のことで、ピニオンカッタ歯先円半径-0.2m=m(z+2.5)/2-0.2m=16.25-0.2=16.05となります。
1点修正が必要なのは、計算開始角度0°の位置です。数学問題では、3時位置(x軸プラス方向)が0°で反時計回りを正回転とするのが普通なのですが、今回のモデルではかみ合い中央である12時位置を開始角度にしています。そのため、上式のx,yを入れ替えて使います。
計算結果
座標変換式とトロコイド曲線式の結果を下図に示します。左図では、両者はほとんど一致しているので、ピニオンカッタ歯先丸み中心の軌跡は、トロコイド曲線であることがわかりました。右図はループ部を拡大したものですが、わずかに位相がずれています。これはピニオンカッタ歯先丸み中心が、歯形のセンターからオフセットしていることが、トロコイド式には反映されていないためです。
内トロコイド曲線
内トロコイド曲線は、下図のように固定円の内周を滑らずに回る動円の中心から、O2p3の距離にある点の軌跡です。今回のように、腕の長さが動円の半径より大きいときにループを描くようになります。下図の場合は固定円と動円の半径比が4:1の整数比であるため、1周すると元の位置に戻ります。ピニオンカッタ歯切り例では125:30と割り切れないため、1周しても元の位置に戻りません。
以前の回で見たように、ピニオンカッタ歯先丸み中心は、歯先径から丸み半径分内側にあり、それは基準円の外側なので、ループを伴ったトロコイド運動をします。
今回は内歯車でしたが、外歯車の歯元隅肉曲線も同様に、ラック歯先の丸み中心のトロコイド曲線をしています。それは別の機会に。
次回に続きます。