LibreCADは、外歯車や内歯車などの創成図を描くことが簡単にできることは既出の通りです。ただし、以前はピニオンカッタを使用した場合の創成図作成方法でしたが、新しくホブなどのラック工具を使った方法も可能になりましたので紹介します。
以下の図では、今回のホブ創成図作図方法(左)と従来の方法(右)を比較しています。両者はほぼ同じですが、左の図はホブ加工をピニオンカッタで近似した作図法を使っています。
もう一点、LibreCADに加えて、QCADでも同様の作図が可能なことが分かったので、合わせて説明します。
提案の方法(ピニオンカッタによる方法をホブに応用)
概要
ピニオンカッタによる創成図の作図方法をホブにも展開できないか検討の結果、以下に述べる作図方法で誤差が1μm以下であることを確認しました。
ポイントは、ピニオンカッタの径を無限大にして直線にしたものがホブなので、極力それに近づけたモデルにしたことです。
具体的には次の2点です。
- ピニオンカッタの径をワークの径の1000倍以上に設定することで、ラックの直線運動を円運動で近似
- 加工工具としてピニオンカッタ形状ではなく、直線切れ刃のラック形状とした
それでは手順を説明していきます。
手順
ラックを作図する
ラック作成方法は下図の通りです。モジュール1、圧力角20deg、歯先の丸み係数0.38とします。
「線分」または「ポリライン」で左半分の頂点座標入力
ラックの左半分の座標は下表に示します。
x | y | |
a | -pi/2 | -1.25 |
b | -pi/4-1.25*tan(pi/9) | -1.25 |
c | -pi/4+tan(pi/9) | 1 |
d | 0 | 1 |
ポリラインとして上表の座標を入力する方法は以下の通りです。
LibreCAD:以下の1行コピーして、画面右パネルの下段のコマンドライン入力欄に張り付け
pl;-pi/2, -1.25;-pi/4-1.25*tan(pi/9), -1.25;-pi/4+tan(pi/9), 1;0, 1
polyline -PI/2,-1.25 -PI/4-1.25*tan(20),-1.25 -PI/4+tan(20),1 0,1
ラック歯先に丸みを付ける
頂点bにR0.38のフィレット追加します。
ミラーコピーで、右半分作成
これで1歯完成します。
創成図作成手順
作成するワークの歯数が20で、モジュールが1とします。ワークの半径は10で、ピニオンカッタの半径は100000とします。ラックのピッチ点を原点Oに取り、ワークを下に配置し、カッタを上に配置します。このとき、ワークの中心O₁は(0,-10)にあり、ピニオンカッタの回転中心O₂は(0,100000)です。ワークが1度回転するとき、ピニオンカッタは10/100000度だけ自転します。つまり、半径10の円の外周を、半径100000の円が滑らずに転がる状態です。これを円の外周を転がる直線と見なせば、インボリュート曲線の創成原理となります。実際に半径100000のピニオンカッタを作る必要はありません。前述のように、ラックの回転半径を100000と仮定するだけです。
LibreCAD
ラックを選択してメニュー「ツール」「変更修正」「二点で回転」クリックします。
画面右のパネル下段にあるコマンドラインに「絶対参照点指示」と表示されたら(0,-10)、相対参照点指示と表示されたら(0,100000)を入力します(カッコは含まず)
「回転2オプション」ダイアログが表示されるので、「複数複写」にチェックを入れて「30」、「角度(a)」に「1」、「角度(b)」に「10/100000」を入力して「OK」クリックします
QCAD
ラックを選択して「修正ツール」「回転2」クリックします。
画面下段のコマンドで「主要な回転の中心」と聞いてくるので(0,-10)を入力、「2つ目の回転の中心」には(0,100000)を入力します(カッコは含まず)
「回転2オプション」ダイアログが表示されるので、「M多重コピー」にチェックを入れて「30」、「アングルa」に「1」、「アングルb」に「10/100000」を入力して「OK」クリックします
(共通)創成図の左半分が作図されたら、ミラーコピーで右側を作成して完成です
諸元を変更する場合
- 歯数変更:上述の(0,-10)のy値を、変更した歯数の基準円半径に修正します。角度(b),アングルbの(10/100000)式の分子10を、新しい歯数の半径に修正します。
- 圧力角:ラックの頂点の式中、またはとなっている個所を、変更した圧力角に修正します。LibreCAD rad単位/ QCAD deg単位です。
カッタ半径設定の根拠
下図は、カッタ半径を100、1000、10000、100000に設定したときの創成図と理論歯形’(オレンジ、線幅0.05)との比較です、R1000以上では歯元の創成図の包絡形状がオレンジの線幅中央にあるので、ほぼ正確に再現していると判断します。R100時は、線幅いっぱいなので0.025の誤差があることになります。ワークはR10なので、相対的には100倍以上の径にすればよさそうですが、さらに余裕を見て1000倍のR100000で評価しました。
LibreCADとQCAD
この二つのCADはもともとQCADでスタートし、そこからLibreCADが派生、分離していった経緯があります。LibreCADは無料ですが、QCADは無料版と有料版があります。今回の検討は無料版で行っています。どちらのソフトも、「2点での回転」という複合運動がコマンドにあることから、創成図作成につながりました。
前回の記事角型スプラインのホブ形状を求めて元のスプラインを作成 #スプライン #CAD - 歯車のハナシでは後半に専用スクリプトを使いましたが、こちらの方法を使えばCADの標準機能だけで完結します。
なお、外歯車の創成図作成機能は、当方が公開しているAUTODESK Fusionの歯車アドイン「igears2.1」で可能なのですが、一般の無料CADの標準機能だけで作成可能なことで、歯車学習の参考になると考え紹介しています。ベースのラック形状を自由に決められることも「igears」のような歯車専用ソフトではできないことです。
応用として、転位させたり、アンダーカット形状の確認、プロチューバランスホブ、セミトッピングホブ、サイクロイド―インボリュート合成ラックによる創成、任意形状ホブによる創成などが考えられるので、いずれ記事としてアップしたいと思います。
なおQCADには歯車作成スクリプトが見当たりませんでした。したがって、今回の方法はできるのですが、前回のピニオンカッタによる創成図は、標準機能だけではできません。全体的にはQCADのほうが機能が多く、スクリプトも作れるらしいのでよさそうなのですが。
QCAD導入時の注意点
QCADをダウンロードすると、有料版の体験版という扱いになります。フリーで使い続けるには、有料版の機能を削除します。詳しい方法は「QCAD インストール」等でググってください。
以上