歯車の形に興味のある人に

インボリュート曲線計算式

以前の記事「正確なインボリュートと歯元隅肉曲線の歯車作図方法」では幾何学的な手順でインボリュート曲線を求めました。
ただし、実用としては当然数値計算が不可欠なので、今回はインボリュート曲線式を2つ紹介しようと思います。

なお、このブログではインボリュート曲線の起点を12時位置にしています。文献によっては3時を起点にするケースがあります。その場合、本記事とはxとyが入れ替わるのでご注意ください。

インボリュート関数を使う計算式

代表的な計算式は次式です。
図1において、インボリュート曲線上の点Bの座標をx,yとするとき

r=\dfrac{r_b}{\cos\theta}\\x=r\cdot \sin (inv (\theta)) \\y=r\cdot \cos (inv (\theta))

ここで
r_b:基礎円半径、r:動径の長さ、inv (θ):動径の角

図1.インボリュート曲線の式

いまは「inv θ」の中身は置いといて、仮に\psiと置き換えます。

x=r\cdot \sin \psi \\y=r\cdot \cos \psi
となります。 このままでは\psi ,rと右辺に2つの変数があるので、整理して1変数にします。

まずrですが、図1を見るとr\cos\theta=r_bの関係があるので

r=\dfrac{r_b}{\cos\theta}
が得られます。次に、\psi\thetaを使って表すことを考えます。
インボリュート曲線の性質から線分BCと円弧ACの長さは等しいので、
BC=\stackrel{\frown}{AC}
ここで
BC=r_b\tan\theta
\stackrel{\frown}{AC}=r_b\cdot (\psi+\theta)
なので
\tan\theta = \psi + \theta\\ \therefore\psi=\tan\theta - \theta
となり、\thetaの関数になりました。この関数のことをインボリュート関数といい、inv (\theta)と表します。
inv(\theta)=\tan\theta - \theta
したがって

r=\dfrac{r_b}{\cos\theta}\\x=r\cdot \sin (\tan \theta-\theta) \\y=r\cdot \cos (\tan \theta -\theta)

ここで
r_b:基礎円半径、r:動径の長さ、inv (θ):動径の角
が導かれました。

半径基準でインボリュート曲線を描くとき

上記の式は基礎円上の角度θを等分割してからrを計算しましたが、逆にrからθを求めてインボリュート曲線を計算したい場合はこちらの式を使います。
\theta=\arccos\dfrac{r_b}{r}\\x=r\cdot \sin (inv \theta) \\y=r\cdot \cos (inv \theta)
この方法は、分轄点が歯面に等ピッチになるので見た目がよいのですが、曲率半径の変化が大きい基礎円付近のピッチが荒くなるので、精度としては不利です。最初に紹介した基礎円を等角度で分割する方は、外径から基礎円に近づくほどピッチが小さくなります。
このあたりは、別の機会に紹介します。

Excel

説明用に作成した表計算の例です。表示のインボリュート曲線は左歯面なので、x座標値の符号を反転すれば右歯面になります。左右のインボリュート曲線が交わる点が、下記の「歯厚が0となる」点のことですが、要するにx座標値が0になる位置=Y軸と交わる点のことです。
❶歯厚と圧力角から、歯厚が0となる圧力角θs0算出
❷歯が直立するための回転角度θtop
❸圧力角0~θs0まで20分割
❹12時起点でx,y計算
❺直立状態に回転変換
❻対応する基礎円側座標計算
ご要望あれば2番目のも含めて差し上げますので、問い合わせフォームにてご連絡ください。

図2.Excel実行例

ベクトルを用いたインボリュート曲線

2番目に紹介する式は次のような形をしています。

x=r_b(\sin\theta - \theta\cos\theta)\\y=r_b(\cos\theta + \theta\sin\theta)

これは右辺を2つに分けることができて
第1項は

x=r_b\sin\theta\\y=r_b\cos\theta
第2項は
x=-r_b\theta\cos\theta\\y=r_b\theta\sin\theta
です。
それぞれの意味は、第1項は図2のベクトルopを示し、第2項はベクトルoqを示しているということです。

図2.ベクトル表示


ベクトルoqをベクトルopに加算する、つまりベクトルoqpに移動すると、これはすなわち、角度θの円弧r_b\theta長を持つ接線なので、移動後の先端q'インボリュート曲線を描きます(図3)。

図3.ベクトル表示

Excel

表計算の例です。ご要望あれば差し上げますので、問い合わせフォームにてご連絡ください。
❶歯厚と圧力角から、歯厚が0となる圧力角θs0算出
❷歯が直立するための回転角度θtop
❸圧力角0~θs0まで20分割
❹圧力角を、起点からの角度に変換
❺12時起点でx,y計算
❻直立状態に回転変換
❼対応する基礎円側座標計算

図4.Excel実行例

Excel計算結果をFusion360で利用する

計算したインボリュート曲線データは、次の手順でFusion360で利用することが可能です。
なお、Fusion360はデータ読み込み時cm単位のため、mmデータは1/10倍しておく必要があります。
❶結果のx,y座標をすべてコピーして、新しいシートのA1セルに貼りつけます。
このときA列にx座標、B列にY座標とし、縦方向にデータを記入します。
❷C列にデータ行すべてについて「0」を入力します。これはz座標のことです。
❸「CSV形式」で名前を付けてデータを保存します。
Fusion360で、「ユーティリティ」「アドイン」クリックします。
スクリプト「importSplineCSV」を探して実行します。
CSVファイル入力画面があらわれるので、保存したCSVを選択します。
❼スプラインが表示されます。

図5.CSV読み取り

どちらの式を使いますか

どちらでも構わないのですが、自分で作るプログラムでは、2番目を使っています。理由はθとrの変換が不要で、θがインボリュート起点からの角度なので使いやすいためです。
1番目の計算式で出てくる、「円弧ACと接線BCの長さは等しい云々」と「インボリュート関数」は、なにかとインボリュート歯車の計算に出てきますから、覚えておきたい項目です。

(追記)
3番目の計算方法を以下の記事で紹介しています。
involutegearsoft.hatenablog.com
それを使ったオンライン計算ツールを次に示します。
involutegearsoft.hatenablog.com