歯車の形に興味のある人に

CADでラックから歯車創成図を書いて3Dモデル化する(1)

この記事のねらい

今までに何回か出てきた図1の創成図は、筆者が無償公開しているWindowsアプリ「involeteGearDesign」で計算した諸元をFusion360に送り、Fusion360側からc++スクリプト「involutegear」を走らせると、Fusion360 APIではなく、c++側の処理でSVG形式として出力されます。

図1.この創成図を作る

この記事では、図1の創成図をFusion360で書いてみます。スクリプトなら簡単なのですが、あえて手作業でやります。そうすると歯車の創成加工について知らない人でも理解が深まるのではないかと思います。

作成した創成図

図2が今回できた創成図です。手作業なのでモデルはシンプルにして、角度刻みも荒くしていますが、歯の形状は十分再現できています。
歯車仕様:歯数20、モジュール1、圧力角20°、頂隙係数0.25、ラック歯先の丸み係数0.38

図2.手作業によりFusion360で作った創成図

加工原理

カッタと歯車素材とが同期運動しながらカッタが歯すじ方向の往復運動をおこない、干渉する部分を除去することで歯車の歯面を創成します。同期運動とは素材がθ回転すると、半径rのピッチ円上で接するカッタは距離rθだけ進みます。

図3.ラック加工

ラックから創成図を作るには

プログラムにより座標変換で作る場合

図3.はラックと素材が両方動いている状態です。創成図は歯車素材の回転をとめてラックの運動の軌跡を描いたものです。このときラックはインボリュート曲線上を動きます。図1で中央にV字型に並んだ赤丸が、そのインボリュート曲線です。
この動きを数学表現したのが図4です。原点にあるラックの輪郭形状を図4の式で角度を変えながら座標変換すると、図1のような創成図が得られます。

図4.ラック創成図

手作業で行う場合:今回提案の方法

上記の座標変換を手動で行います。歯車素材がθ左回転したとすると、その間にラックは左へrθ水平移動するので、その位置にラックを置きます。次に素材とラックを、θ右回転すると、素材は元の位置にもどるので停止していたことになりますが、ラックは左にrθ移動した状態から右へθ回転します。これは、素材の運動を止めてラックを加工後θの位置に置いたことに相当します。
同様の操作を0~θまでn等分して行います。

今回は、θを50°として50°までの水平距離を10分割し、それぞれの位置にラックを書きます。次に、配置したラックを中央側から順に5,10,15,20,,,,50°右回りに、ピッチ線中心を軸に回転させると、インボリュート線に配置したことになります。

図.ラック加工原理の再現
準備

ラックのピッチ線に接する半径10のピッチ円を作成します。
ピッチ円中心を通る軸を作成します。
メニュー「投影」で前回作成したラックから、ラックの歯溝部分(谷部)の形状を取り出します
円形状パターンで5°毎に10本の半径線を書きます。

図.ラックの歯溝部分(青線部)を取り出し
図5.準備
図6.半径線配置入力


矩形状配置でラックを10個画面左側に追加します。半径10のピッチ円が50°回転したとき、ラックの移動距離はL=rθ=-10*50/180\piなので、これを10等分する位置にラックを直線配置します。

図7.ラックを複製配置
図8.ラック配置入力

創成図作成

準備が整ったので、創成図を書いていきます。

図9.2番目を回転移動
  1. 「修正」「移動」コマンドまたはMキーで移動のウィンドウ出します
  2. 2番目のラックと半径線を選択
  3. 移動タイプを「回転」選択
  4. 「軸」にピッチ円中心軸を選択
  5. 回転のハンドルが出てくるので、マウスで選択した半径線が直立位置に一致するまで回転させるか(5°おきにスナップが効く)、角度欄に「-5」を入力
  6. 「OK」クリック
  7. 以下3~10番目まで同様に操作。角度欄使う場合は順次-10,-15....-45,-50入力
  8. 作成した創成図全体をミラーコピーして完成
図10.完成した創成図

検証

できた創成図を、igears2による厳密計算歯形と比較してみます。

igears2ソリッドモデルと比較

5°間隔は荒めだったので、多角形誤差のようなものはありますが、形状自体はigearsの厳密計算歯形に一致しています。

まとめ

  • ラック形状から創成図が作成できました。おおむね形状は正確です。
  • この方法で、ラックと歯車素材の相対運動によって歯車が創成加工されることが体験できます。
  • 今回の技術は、Fusion360にかぎらず普通のCADで実行可能なレベルの機能を使用しており、スクリプトの類は使っていません。歯車作成機能のないCADでもほぼ正確な歯形が得られることが確認できました。
  • 次回は創成図をもとに3Dモデルを作成して誤差を評価します。その後、歯底形状の成り立ちやアンダーカットが作られる理屈について、創成図をもとに解析していきます。

備考

5°ピッチにした理由は、3つありますが9割は1番目です。皆さんがトライするなら2°ピッチくらいでやってみてください。

  • 手作業なので図9の作業を10回以上やりたくない
  • 図9でハンドルをつかんで回転移動するとき、5°でスナップが効いて都合がよい
  • 図9でラックを選択するときに、細かいピッチでは、重なりが多くて選択が難しくなる

現状のピッチのままなら、後処理で表面を滑らかにするような工夫、たとえば3点円弧で接続していくか、スプラインに置き換えるなどが有効かもしれません。