歯車の形に興味のある人に

遊星歯車条件が成立する歯数の算出方法

遊星歯車を設計するときには、特定の条件を満たす歯数の組み合わせを見つける必要があります。具体的には、「等配条件」(ピニオンを円周等間隔に配置する条件)や「同軸条件」(リングギヤ、サンギヤ、キャリヤの回転中心が同軸になる条件)などの制約があります。これらの条件を満たす歯数の組み合わせを見つけるためには、合理的な計算方法が必要です。

多くの遊星歯車は「シングルピニオンまたはダブルピニオンの等配条件」+「同軸条件」+「隣接条件」を考慮する必要があります。また、ラビニヨ方式の場合は、「シングルピニオン、ダブルピニオン、ダブルサンギヤの条件」+「同軸条件」+「隣接条件」を考慮します。

これらの式をすべて連立させると複雑になるため、「等配条件」と「同軸条件」に注目した歯数の組み合わせの一覧を作成します。その後、必要な条件に合うものを選別することにします。この過程では、未知数が方程式の数よりも多い「不定方程式」が生じます。しかし、解が歯数である場合は整数解であり、取り得る歯数の範囲によって解を列挙することができます。

具体的には、遊星歯車の歯数組み合わせの算出は、一般的に「1次不定方程式(ax + by = c)の整数解を求める」問題に帰着します。この内容は高校の数学Aで学ぶことができるものです。要するに、歯数の条件を整数解として求める問題となります。


この問題の解法は、次の手順です。

  1. 満足する解を一つ見つける(特解)
  2. 見つけた解で一般解を構成する

ひとまずやってみましょう。

手順

遊星歯車の等配条件
Z_r+Z_s=X\cdot n・・・(1)
同軸条件(幾何学条件)
Z_r-Z_s=2Z_p・・・(2)
ここで
Z_r:リングギヤ歯数
Z_s:サンギヤ歯数
Z_p:ピニオン歯数
n:ピニオン個数
X:整数

(1)式、(2)式を辺々加えて次式を得ます。
2Z_r=X\cdot n +2Z_p・・・(3)

ここでピニオン歯数Z_p15、ピニオン個数n20とします。よって
Zp=15,n=20
(3)式に代入すると
2Z_r=X\cdot 20+2\cdot 15 \\-20X+2Z_r=30\\-10X+Z_r=15・・・(4)
(4)式は、2つの未知数を含むので不定方程式です。

これを解くには(4)式の解を、一組考えます。するとZr=25、X=1が思いついたとして一般解を求めます。
(4)式を
a*X +b*Z_r = c・・・(5)
と表した時、Zr=25、X=1を代入すると次式を得ます。
a*1 +b*25 = c・・・(6)
(6)式から(5)式を辺々差し引いて
a(1-X)+b(25-Zr)=0・・・(7)

(7)式が常に成り立つには
-a(1-X)=b(25-Zr)・・・(8)
(8)式の両辺が等しいことから
b=(1-X),-a=(25-Zr)・・・(9)
であり、その整数倍も解となるので、tを整数としたときに
-at=(25-Zr)・・・(10)
bt=(1-X)・・・(11)
が成り立ちます。

ここでa,bは(4)式からa=-10,b=1なので
Zr=25+at=25-10t・・・(12)
X=1-bt=1-t・・・(13)
Zs+Zr=20X・・・(14)より
Zs=20X-Zr=20-20t-(25-10t)=-5-10t・・・(15)

tに適当な整数を入れて、順次計算していくと

t -13 -12 -11 -10 -9
Zs 125 115 105 95 85
Zp 15 15 15 15 15
Zr 155 145 135 125 115

の歯車の歯数組み合わせが得られるので、さらに狙いの変速比かどうか、隣接条件などのフィルタをかけて、合格する組み合わせを選択します。

上表中でt=-13の組み合わせによる遊星歯車をigearsで作図したのが下図です。ピニオンがアンダーカットなので、正転位0.5を与えています。

図1.Zr135、Zs95、Zp15、N20の作図例
図2.諸元表

ここに述べた計算例は、「歯車便覧*1(歯車便覧編集委員会 編. 日刊工業新聞社, 1962)」のⅠ緒論3.歯車列p66に記載されている内容を少し修正したものです。

今回の内容が理解しにくい場合は、ネットで「1次不定方程式の整数解」などで検索すると、分かりやすいサイトがたくさん見つかるので、ご参考になさってください。


次回に続きます。

*1:絶版。国会図書館オンラインで閲覧可能